アレシアの原案

記事の中身: Eternal Leaguesの二次創作。アレシアの原案にした仲間のキャラクターが出ます。セリオンも出ます(セリオンが主人公)。PDF版もあります。



せっかくTRPGのサイトとリンクさせたので、これを出さないともったいない、というネタがあります。まふマジ本館のうさぎさんが自己紹介で上げていたEternal Leaguesの二次創作で、アレシアの原案にした仲間のキャラクターが出ます。セリオンも出ます(セリオンが主人公)。
元のゲームを知らないと何のことだかわからないコアなネタも満載で、用語も割と多く出て来るので、ちょっと見て駄目そうな方はご遠慮ください。

PDF版も作成しました。縦書き二段組になっております。(12月23日追記:誤植の修正をしました)
PDF版:日記_ジューア歩兵とセリオン


   ジューア歩兵とセリオン-順不同
すずめ

・二人が共にいる理由
 セリオンはジューア歩兵になぜ旅に同行するか尋ねた。
 ジューア歩兵はセリオンを殺気に満ちた表情で睨みつけた。一分、いや二分は経ったと思えたが、実際には一瞬のことだった。
「お前をダルフィの町で初めて見かけたとき、お前がイェルスだってことは嫌でもわかった。まず気が付いたのは機械油のにおい、次に散弾銃。きっとその散弾銃を毎日のようにメンテナンスしているんだろう、と。俺は無我夢中で、お前に飛び掛かろうとした。だが、その度に」
 ジューア歩兵は何かを想像したのか、身震いした。
「お前が血だまりの中に沈む度に、なかったことにされるんだ。何かとても恐ろしい力が働いているのか、まるで、時間を戻されたような」
 セリオンは怪訝な顔をした。そんなことは知らないと言った。
「やはりそうなんだな。そうして俺は数十回、お前を切り裂き、なかったことにされ、自分の無力さを思い知らされた。……もうお前に歯向かうことはないよ」
 セリオンはまだ理解できないようだった。ただ、死ぬことが想像できない、とは言った。


・一度目の出会い
 ダルフィの暗い路地裏で、一人のジューア歩兵の男がじっと息を潜めていた。機械油のにおいがしていた。近くにイェルス兵がいるらしかった。彼は抜身の剣に毒を塗り、イェルス兵が近づくのを待った。
 セリオンはジューア歩兵の近くを歩いていた。機械油のにおいは、腰に下げられた重そうな機関銃からしていたのか。不用心なことに、財布を取り出し中身を数えていた。
 路地の向こうに、セリオンの影がちらついた。ジューア歩兵が真後ろに立とうがびくともしないその貫禄に、彼はたじろいだ。しかし勇敢な彼は剣を振りぬいた。
 セリオンは突然の首元の痛みに反撃しようとしたが、毒が回り、膝をついてしまう。ぼやける視界に、金色の髪が映った。何かを言おうと開いた口から、ごぼごぼと血があふれた。
 ジューア歩兵は何も考えることなく、とどめを刺していた。
 突然激しい頭痛とめまいに襲われ、気が付くと血の匂いはなく、路地裏の壁にもたれかかっていた。先程と同じ人影が、路地の向こうで財布を取り出し中身を数えていた。
 数十回繰り返し、勝てないことを悟ったジューア歩兵は、セリオンに仲間になることを申し出た。快く了承された。


・名前
 ダルフィの町を出て、一通りの事務を済ませたセリオンは、ジューア歩兵に問いかけた。
「君のことを、その……、もし名前で呼んで差し支えなければ名前で呼ぶが」
 ジューア歩兵は名乗ったが、難しい発音で、セリオンには完全な復唱ができなかった。
「アレシア・ドリー?」
ジューア歩兵はため息をついた。
「違う。アレシァンドゥリーだ。ドじゃない、ドゥだ。……まあいい」
「じゃあアレシア」
 アレシアはぶっきらぼうに返事をした。
「なんだか女性の名前みたいだ」
「お前が勝手に短くしたからだろう」
 セリオンはポンと手を叩いた。


・アイデンティティ
 草笛の音色を聞いていたセリオンが、ふと昔話をした。
「この大陸に流れ着いたばかりの頃は、まずは銃を手に入れたかったが、それとなく楽器も弾きたかった。町の酒場に置いてあるピアノの前に立って、何回も弾こうとした。でも、いざ弾こうとすると、手が止まってしまうんだ。滑稽な話だろうが、演奏ができない自分たちはいつも楽器の前で止まってしまうんだ」
 アレシアは頷いて話を聞いていたが、あまり興味はなさそうだった。
「君の知っての通り、自分はステレオタイプ的なイェルスだ。銃が使えて、演奏ができない。でも、演奏ができることへの憧れはあるんだ。それと、美人が好きだ」
 アレシアはセリオンを見下ろした。
「美形に言われても嫌味にしか聞こえないな。自分のこと鏡で見直してこい」
 セリオンはキョロキョロと辺りを見回し、水たまりを見つけてポーズをとった。
「それだよ、それ。お前のその美への追求がすぐに鏡を見つけたり、ポーズをとることにも表れてるんだよ」
「自分は初めの頃は店主にも嫌な顔をされる位のひどい見た目をしていたんだが」
「お前の初めの頃なんて知らねぇ。俺が知ってるのは今のお前だ」
 水たまりの前でうんうんとうなるセリオンに、あきれて草笛を再開し、美への追求なんてイェルスらしくないと思うアレシアだった。


・同士討ちについて
「同胞を撃つのはどうなんだ。何か思うところがあるのか」
 セリオンは表情を変えずに言った。
「いいや、なんとも。銃が撃てればそれでいい。撃ち合いができればなおさらいいさ」
しばらくして思い出したように口を開いた。
「そうだ、君はどうなんだ。同士討ちは平気か」
 アレシアは首を振った。
「姿が見えると、だめだ。見えない位置から一撃で仕留めるのなら、まだ、なんとかな」
セリオンはうんうんと頷いた。
「わかる。自分も姿が見えるとだめだな」
アレシアは眉をひそめた。
「なんだ。さっき同胞を撃つのは平気だと言ったばかりだが」
「ジューアが撃てない。あのきれいな顔が苦痛に歪むのが、つらい」
アレシアはセリオンからそっと距離をおいた。


・転移魔法の紐
 セリオンはアレシアに紐を取り出して見せた。
「なんだこの紐は」
「魔法の道具の一つらしい。結んだ者が自分のそばから離れたときに近くに転移させる道具だ」
アレシアはしばらく首を傾げていたが、紐の意味を理解したのか、座っていた椅子をガタンと倒し慌てて立ち上がった。
「困る。やめろ。セリオン君、やめないか」
「まあ嫌だろうが、これは生存率を高める上で仕方のないことだ」
 セリオンが手首のスナップを利かして紐を投げると、生き物のように紐が動き、アレシアに巻き付いていく。
「うっ、なんだこれは。気持ち悪い」
逃げ出したアレシアは、ある程度離れるとセリオンのほうへと瞬時に戻り、勢いよく転んだ。
「よし、上手くいった」
「い……ってぇ。待ってろよ、いつかこの仕返しをしてやる」
アレシアは地面にぶつけた腕を擦りながら言った。
「ああ。できるものなら。ところで」
「ああん?」
「紐の感触はあるか」
アレシアははっとなって体のあちこちを叩いたり払ったりした。
「ない。……ないな! おい、これってすごいな!」
 セリオンは得意げに微笑んだ。


・趣味
「趣味はあるのか」
 セリオンは曖昧に頷いた。
「趣味と言っていいのかわからないが、読書は好きだ」
アレシアは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「それはまぁ、……崇高な趣味ですこと。お前らしいよ」
セリオンは照れた。
「褒めてない」
「君の趣味はなんだ」
「演奏だ」
アレシアは即答した。
「ああ、趣味なんだ。通りで稼がないな、と。偉いね」
「稼がなくて悪かったな」
「褒めてるんだよ?」
アレシアは半笑いになった。


・寝言
 セリオンは眠りについた。アレシアも警戒を解き、うつらうつらとし始めた。
「ううん……、アレシァンドゥリー……」
アレシアはごしごしと目をこすって起きたが、どうやらセリオンは寝言を言っているらしい。アレシアは再びうつらうつらと寝始めた。
「自分は、君がそばにいて幸せだ……、アレシァンドゥリー……」
その日アレシアはいつもよりちょっといい夢を見たそうだ。


・ロシアンポーション
 セリオンは鞄から瓶に入った薬品を一本、無造作に取り出し、アレシアに見せた。
「何を飲めるか、運試しでもしないか」
アレシアは大声で怒鳴った。
「何をわけのわからないことを言っている。正気か」
セリオンはうっすら笑みを浮かべている。
「ああ。至って正気だ。ぱっと見た感じ酒か何かだ」
「ふざけんじゃねぇ。お前から飲めよ」
 セリオンは躊躇うことなくごくりと飲み干した。
「ああー、まずい。水だけど、おいしくないやつだ」
 そうしてもう一瓶を鞄から取り出した。
「さっ、君の番だ」
アレシアは瓶の前であれこれ言っていたが、セリオンが引かないと見ると、覚悟を決めて飲み干した。
 アレシアの様子がおかしい。座った眼でセリオンをじろりと見上げると、片手で頭を鷲掴みにし、もう片方の手に握ったナイフを首元に当てがっていた。
「おいイェルス。この俺の目の前に無傷でいるなんて、大した度胸だな」
その後アレシアは耳元で何かを囁いた。おそらく相手を挑発する言葉かなにかだ。
 あまりにもどうしようもない状況に、セリオンが乾いた笑い声を上げると、ナイフがさっと動いた。
 セリオンはひどく後悔していた。


・最後の出会い
 路地裏でぜぇぜぇと荒い息をつく一人のジューア歩兵がいた。彼は目の前でにこにこ笑う一人のイェルス系の男に数十回攻撃を仕掛けたが、仕留められなかった。何かこの世の法則から外れた存在らしい。
「君は、ジューアの歩兵かな。自分は今ちょうど君のような顔立ちのいいジューアの兵士を探していてね。良かったら一緒に来ないか」
魅力的ないい声だった。ジューア歩兵が慌てて首を横に振ると、目の前に金貨の入った袋を出された。
「一か月分はある。これで手を打ってくれるとうれしいんだが」
ジューア歩兵はごくりと唾を飲み込んだ。金のことを忘れていた。このままこの金貨を奪って立ち去ってもいいか。こいつを逃がすのは惜しいが……。
 ジューア歩兵は金貨の入った袋を勢いよくひったくると、真後ろに駆け出した。
 イェルス系の男はほとんど反射的に手持ちの銃を構え、そして。
 後ろからあの悪魔のような男の足音がコツリコツリと響いてきて、止まった。金貨の入った袋を拾い上げる音がする。
「あっ、そうだ。大丈夫かい。反射的に撃ってしまったけど」
 返事にならないうめき声がした。ジューア歩兵は応急処置を施され、抱えられた。イェルス系の男の背中を、どくどくと溢れる血が濡らしていく。
「悪魔さんよ。名前は、なんていう」
背中から眠そうな声がする。
「……セリオン」
「へぇーっ、道理で……なあ……」
 それきりだった。代わりに聞こえてくるのは浅く速い呼吸と、やけに大きな心臓の音だった。セリオンは道を急いだ。


・お菓子
 パイが焼き上がった香りがする。セリオンがパイを口に運ぶのを、アレシアがじっと見ていた。
「食べたい?」
 セリオンは全て食べ終わって口を拭いながら言う。
「いいや。ただ、美味そうだなあって」
「そうだね。自分で言うのもなんだけど、自分の作るお菓子は美味しいよ」
 ごくりと唾をのむ音がした。セリオンはもう一品作り、アレシアに手渡した。
「はい。とりあえず作ったゼリーだ」
 アレシアは少し驚いた顔をした。一口ずつゆっくりと食べた。
「ああ、これは、いいな」
 アレシアの顔が綻んだ。

コメント